感情マップとは?UXリサーチにおける感情設計の基本を解説
2026年 9月25日
ユーザーの困りごとが説明できないのはなぜか
アクセス解析やヒートマップなどの行動データを見れば、「どのページで離脱したか」「どこでクリックが集中しているか」は分かります。しかし、それだけでは「なぜそこで離脱したのか」「なぜそのボタンを避けたのか」という理由までは見えてきません。
サイト改善の担当になったばかりの方が最初にぶつかる壁は、この『なぜ』を説明できないことです。上司や関係部署に改善提案をする際、行動データだけでは「これは仮説にすぎないのでは」と突っ込まれ、説得力を持たせられないケースも少なくありません。
この『なぜ』の多くは、ユーザーがそのとき何を感じていたかという内面の動きに関係しています。迷い、不安、期待外れ、安心感といった感情の変化を捉えることで、行動の背景にある理由を説明しやすくなります。ここで登場するのが「感情マップ」という考え方です。
感情マップとは何か
感情マップとは、ユーザーがサービスやサイトを利用する一連の流れの中で、どの場面でどのような感情の変化があったかを可視化したものです。横軸に利用の流れ(時系列やステップ)、縦軸に感情の起伏を置き、どこで気持ちが上がり、どこで下がったかを線やグラフで表すのが一般的な形です。
目的は、ユーザーの体験の中にある「感情のピークと谷」を関係者全体で共有可能な形にすることにあります。感情マップ単体では数値的な検証を行うものではなく、インタビューや観察調査で得られた発言・行動を整理し、仮説として体験の課題を浮かび上がらせるためのツールと位置づけられます。
似たものとして「カスタマージャーニーマップ」がありますが、両者は目的の重心が異なります。カスタマージャーニーマップは、ユーザーの行動・タッチポイント・思考・感情など複数の要素を時系列で網羅的に整理するのに対し、感情マップは感情の起伏そのものにフォーカスを絞り込んだ表現です。カスタマージャーニーマップの中の一要素として感情の変化を描く場合もあれば、感情マップを単独で作成し、後からジャーニー全体に統合する場合もあります。
感情設計という考え方の意義
感情マップを作ること自体が目的ではなく、その先にあるのが「感情設計」という考え方です。感情設計とは、ユーザーが体験の中でどのような感情を抱くかをあらかじめ想定し、それを踏まえてサイトやサービスの流れ・情報設計・言葉遣いなどを検討していく考え方を指します。
行動データは「結果」を示しますが、感情の視点は「その結果が生まれた過程」を示します。たとえば入力フォームでの離脱が多いという結果に対して、感情の視点を組み込むと「入力項目が多くて面倒だと感じた」のか「個人情報を入れることに不安を感じた」のかで、打つべき対策は変わってきます。
このように感情設計は、複数ある改善案の中から「どれを優先すべきか」を判断する material(材料)を増やす役割を果たします。感情という切り口を持つことで、関係者の間でも「ユーザーがどう感じていたか」という共通言語ができ、議論がしやすくなるという側面もあります。
感情の変化を正確に捉えるためには、調査の場でユーザーに本音を語ってもらう環境づくりも欠かせません。この点については、調査参加者に“正直に答えてもらう”ための環境作り・声かけのコツでも取り上げていますので、あわせて参考にしてください。
感情マップで分かること・分からないこと
感情マップは便利な可視化手法ですが、基礎知識として押さえておきたい限界もあります。
まず、感情マップは調査対象者の発言・表情・行動などをもとに作成者が解釈して描くものであり、統計的に検証された「事実」ではなく「仮説」として扱う必要があります。少人数の調査結果から作成した感情マップを、そのまま全ユーザーの傾向として断定することは避けるべきです。
また、感情マップは「どこで感情が動いたか」を示しますが、「なぜその感情が生まれたのか」という深い理由までは、マップ単体では説明しきれません。感情の谷が見つかった場合、その背景を掘り下げるには、追加のインタビューや行動観察といった定性調査が必要になります。
この「なぜ」を掘り下げる調査設計そのものにも注意点があります。聞き方によって回答が歪んでしまうこともあるため、UXリサーチの“聞き方ミス”がデータを歪める理由も参考にしながら、感情マップ作成の前提となる調査の質を高めておくことをおすすめします。
感情マップを実際に使うとどうなるか
ここまで、感情マップ・感情設計の定義と役割、そして限界について整理してきました。概念としての理解ができたら、次に気になるのは「実際に感情マップを使うと、体験設計や議論はどのように変わるのか」という点かと思います。
具体的な作成の流れや、感情マップを使ったことで体験設計の議論がどのように進みやすくなるのかについては、体験設計に“感情マップ”を使うと何が変わる?実例で学ぶUX設計で実例を交えて解説していますので、あわせてご覧ください。