UXリサーチの“聞き方ミス”がデータを歪める理由
2025年11月18日
ユーザーインタビューやヒアリングは、UX改善に欠かせないアプローチです。しかし、実務では「データがバラバラ」「結論が矛盾する」「改善に使えない」という悩みも多く聞きます。
この原因の多くは、ユーザーの声ではなく“聞き方ミス”によってデータが歪んでいることにあります。
この記事では、RARE TEKTの上野がUXリサーチの現場で実際に直面してきた「聞き方の落とし穴」と、その理由を整理します。
“答えやすい質問”がユーザーの本音を隠してしまう
よくあるミスが、「答えやすい質問」を投げかけてしまうことです。
- このページは分かりやすいですか?
- どちらのデザインが好きですか?
- ○○は必要だと思いますか?
こうした質問はユーザーが即答しやすいため、スムーズに進んでいるように見えます。しかし、本来知りたいのは「分かりやすいかどうか」ではなく、「どこで迷ったのか」「なぜそう感じたのか」という背景です。
答えやすい質問に誘導すると、ユーザーは“好み”や“印象”ベースで回答してしまい、本質的な課題を見えなくしてしまいます。
“仮説を押しつける質問”でデータが偏る
改善案を持った状態でヒアリングに臨むと、つい次のような質問をしてしまいがちです。
- この導線が原因で迷いましたか?
- ボタンの色が見えにくかったですか?
- ここの説明が足りないと思いませんか?
これらは、すべて仮説を押しつける聞き方です。ユーザーは質問に合わせて理由を探そうとするため、実際の行動とは異なる答えを話し始めます。
この結果、本来の問題ではない部分が“課題らしく”見えてしまい、改善の方向がズレます。
“未来の行動”を聞いてしまうと、正しいデータにならない
UXリサーチでは、ユーザーの未来の行動を尋ねることもよくあります。
- この機能があれば使いますか?
- こういうUIだと便利ですか?
- もし改善したら、もっと利用しますか?
しかし、ユーザー自身は未来の行動を正確に予測できません。これは行動科学でも明らかにされている事実です。
未来の行動=本人の希望や想像であり、実際の行動とは別物です。
ユーザーが「便利」と言っても実際には使わない、という状況はこの典型。未来を聞いた時点で、データの再現性が低くなります。
“抽象的な質問”が曖昧な回答を生み、解釈がブレる
抽象的な質問も、データを歪める大きな要因です。
- どう思いましたか?
- 気になったことはありますか?
- 全体的にどうでしたか?
これらの質問では、ユーザーは思いついたことを自由に話します。しかし、回答が抽象的すぎて実務への落とし込みが難しく、チーム内で解釈が分かれてしまいます。
抽象的な質問は深掘りの「入り口」としては使えますが、これだけでデータとしてまとめるのは危険です。
“その場の印象”を拾ってしまい、行動との整合性が取れない
インタビューでは、ユーザーがその場の雰囲気で発言してしまうことがあります。
例えば:
- 聞かれたから答えているだけ
- 「使いやすい」と言った方が無難だと感じる
- 専門家がいる前で「分からない」と言いづらい
こうしたバイアスが入りやすいため、言葉通りに受け取ると改善方向がズレます。
重要なのは、言葉ではなく行動と照合することです。行動ログや実際の操作を観察しないインタビューは、歪んだデータになりやすい傾向があります。
明日からできる聞き方改善ステップ
- 意見ではなく「行動」「理由」を優先して聞く
- 仮説を押しつける質問を避け、中立的に質問する
- 未来の行動ではなく、“過去の具体的な行動”を聞く
- 抽象的な回答は、必ず具体例や状況で深掘りする
- ユーザーの言葉は行動ログ・観察とセットで解釈する
UXリサーチは「何を聞くか」よりも「どう聞くか」で結果が大きく変わります。聞き方のミスが積み重なると、集めたデータそのものが歪み、改善施策がまったく違う方向へ進んでしまいます。
正しい聞き方を設計し、行動と照合しながら分析することで、ユーザーの本音に近いデータが得られるようになります。