体験設計に“感情マップ”を使うと何が変わる?実例で学ぶUX設計
2025年11月20日
ユーザー行動を把握するために、カスタマージャーニーや行動ログはよく使われます。しかし、実務では「行動は分かったけど、なぜその行動になったのかが見えない」「改善にどうつなげるかが曖昧」という悩みが残りがちです。
この“行動の裏側”を読み解くために効果を発揮するのが、感情マップ(Emotion Map)です。ユーザーが操作中にどんな感情を抱いているのかを可視化することで、体験設計の質が大きく変わります。
この記事では、RARE TEKTの上野が実務で使ってきた「感情マップを使うと何が変わるのか」を、実例ベースで解説します。
“行動だけ”ではユーザーの迷いや負担が見えない
GA4などの行動ログは非常に有用ですが、ユーザーが「なぜその行動をしたのか」は把握しづらい傾向があります。
- 離脱がどこで起きたかは分かるが、なぜ離脱したかは分からない
- スクロールが止まった理由が分からない
- 比較ページで時間が長くても、迷っているのか検討しているのか判断できない
行動はあくまで“結果”であり、そこに至る感情や負担はデータでは見えません。ここを補完するのが感情マップです。
感情マップが明らかにする“心理的負荷”
感情マップを作ると、ユーザーがどの場面でどんな感情を抱いているかが可視化されます。
例えば典型的な例として、次のような感情の流れが見えてきます。
- トップページ:期待・安心
- 商品比較ページ:混乱・迷い
- 申し込みフォーム:不安・面倒さ
- 確認画面:早く終わらせたい・焦り
- 完了画面:安心・達成感
同じページでも、ユーザーがストレスを感じている瞬間を特定することで、「行動ログだけでは分からない改善ポイント」が一気に浮かび上がります。
“迷っている”のか“じっくり検討している”のかを区別できる
GA4では「滞在時間の長さ」だけを見ると、良いのか悪いのか判断が難しいことがあります。感情マップを併用すると、その違いが明確になります。
- ネガティブな感情 → 迷っている、理解できていない
- ポジティブな感情 → 比較検討に前向き、期待が高まっている
同じ“長い滞在時間”でも、感情によって改善の方向はまったく変わります。
改善の優先順位が“感情の谷”で決められる
感情マップの大きなメリットは、改善の優先順位が明確になることです。ユーザーの感情が大きく落ち込むポイント(いわゆる「谷」)は、UX改善のインパクトが大きい部分です。
例えば:
- 比較ページで「迷い」が大きく発生している → 情報整理・視覚的比較の改善
- フォームで「不安」が高い → 入力支援・エラー回避の設計が必要
- 確認画面で「焦り」がある → 入力内容の見やすさ、操作の安心感を補うUIが必要
この“感情の谷”を埋める改善は、上流から下流まで体験全体に効く施策になりやすいのが特徴です。
実務での使い方:ジャーニーの横に“感情軸”を並べるだけで良い
感情マップと聞くと、特別なテンプレートが必要だと考える人もいますが、実務ではもっとシンプルで十分です。
次の2行をジャーニーの横に追加するだけで、感情マップになります。
- どんな感情が出ているか(期待・迷い・不安・安心など)
- その理由(なぜその感情が生まれたか)
この2つを加えるだけで、行動ログやヒアリングだけでは見えない構造が浮かび上がってきます。
なぜ感情マップを使うと“体験設計”が変わるのか
感情マップの最大の効果は、「ユーザーの体験を、行動ではなく心理の流れとして捉えられる」ことです。
これにより:
- 導線の設計が“迷わせない構造”に変わる
- フォーム改善が“安心して入力できる設計”になる
- コンテンツの優先順位が“不安解消 → 行動促進”の順になる
行動ログだけで設計すると、どうしても“動かすUI”に寄りがちですが、感情マップを使うと“ユーザーの心理が自然に動く体験”を作れるようになります。
明日からできる実務ステップ
- 既存ジャーニーの横に「感情」と「理由」を追加する
- ユーザビリティテストのログから“感情の谷”を特定する
- GA4の行動データと感情マップを照合し、迷いの原因を探る
- 改善案は「どの感情をどう変えるか」を軸に整理する
感情マップは、単なる補助資料ではありません。ユーザーの心理を可視化することで、体験設計の方向性を揃え、改善の優先順位を明確にし、UX全体の質を底上げする強力なツールです。
行動データと感情マップの組み合わせは、実務で最も再現性の高いUX設計アプローチの一つと言えます。