DX推進担当が最初に整理すべきこと
2026年 5月14日
DX推進担当になったとき、最初に悩むのは「どのツールを入れるか」ではありません。本当に難しいのは、会社の中で何が詰まっていて、誰がどの情報を必要としていて、どの判断が遅れているのかを見極めることです。ここを整理しないままシステム導入やAI活用を進めると、現場には新しい入力作業だけが増え、経営側には期待した成果が見えないという状態になりやすくなります。
DXは、単なるIT導入ではなく、業務・情報・意思決定の流れを変える取り組みです。だからこそ、最初に必要なのは大きな構想資料ではなく、現場で起きている小さな詰まりを丁寧に言語化することです。
最初に整理すべきなのは「何をデジタル化するか」ではない
DX推進で失敗しやすい企業ほど、最初からツール名やシステム名の話に入ってしまいます。チャットツール、CRM、SFA、BI、AI、ワークフロー、ナレッジ管理など、候補はいくらでもあります。しかし、導入するものを先に決めても、解決すべき問題が曖昧なままでは、現場にとっては「また新しい運用が増えた」という印象になりがちです。
本来、最初に見るべきなのは業務の流れです。どの部署で情報が止まっているのか、誰の確認待ちで判断が遅れているのか、なぜ同じ情報を何度も転記しているのか。こうした構造を見ずにデジタル化すると、紙がExcelになり、Excelがクラウドツールになっただけで、仕事の本質的な詰まりは残ります。
つまり、DX推進担当が最初に整理すべきなのは「導入候補」ではなく、「業務上の摩擦」です。デジタル化は手段であり、目的は業務や意思決定を前に進めることです。
現場の不満は、単なる抵抗ではなく重要な情報である
DX推進では、現場から反発が出ることがあります。「今のやり方で困っていない」「入力が増えるだけではないか」「前にも似たようなツールを入れたが使われなかった」。こうした声は、推進側から見ると抵抗に見えるかもしれません。しかし実務上は、そこに重要な手がかりが含まれています。
現場が新しい仕組みに抵抗する背景には、過去の失敗体験があることが多いです。以前導入したシステムが使いにくかった、入力しても誰も見ていなかった、ルールだけ増えて自分たちの業務が楽にならなかった。こうした経験があると、どれだけ正しい方針でも「また同じことが起きるのではないか」と受け止められます。
そのため、DX推進担当は現場の声を説得対象として扱うのではなく、業務設計の材料として扱う必要があります。特に確認すべきなのは、誰が何に困っているかだけでなく、現場がどのような回避策を作っているかです。Excelの二重管理、口頭確認、個人フォルダでの資料保管、メール検索への依存などは、公式ルールが現場に合っていないサインでもあります。
DXの出発点は「情報の流れ」を描くこと
多くの業務課題は、情報の流れを見ると整理しやすくなります。誰が情報を作り、誰が確認し、誰が判断し、誰が実行しているのか。この流れが見えないままでは、どこにシステムを入れるべきかも、どこを自動化すべきかも判断できません。
たとえば、問い合わせ対応が遅いという課題があったとしても、原因はフォームやメールだけとは限りません。担当者の割り振りが曖昧なのか、過去の対応履歴が見つからないのか、回答に必要な技術情報が散らばっているのか、承認者の確認待ちなのかによって、打ち手は大きく変わります。
ここで有効なのは、業務を細かく分解しすぎることではなく、意思決定に必要な情報がどこで生まれ、どこで止まり、どこで失われているかを把握することです。DXは情報をデジタルに置き換える活動ではなく、必要な人が必要なタイミングで判断できる状態を作る活動です。
経営課題と現場課題を分けて整理する
DX推進が難しい理由の一つは、経営層が見ている課題と、現場が感じている課題が違うことです。経営層は生産性、売上、利益率、人材不足、競争力といった大きなテーマでDXを語ります。一方、現場は入力の手間、探しにくさ、確認の多さ、属人化、引き継ぎの難しさといった日々の負担として課題を感じています。
この二つをつながないまま進めると、経営側には「現場が協力してくれない」と見え、現場側には「上からまた何か降ってきた」と見えます。DX推進担当の役割は、このズレを翻訳することです。経営課題を現場の業務言語に変換し、現場課題を経営判断につながる言葉に戻す必要があります。
整理の軸としては、次のように分けると見えやすくなります。
- 経営上の課題は何か
- 現場で起きている具体的な詰まりは何か
- 情報が止まっている場所はどこか
- 判断が遅れている理由は何か
- 改善できた場合、誰にどのような効果が出るか
この整理ができると、DXは抽象的な掛け声ではなく、具体的な改善テーマになります。
最初から全社最適を狙わない
DXという言葉には、どうしても全社改革の印象があります。しかし、最初から全社最適を狙うと、関係者が増えすぎて動きが止まりやすくなります。部署ごとの業務ルール、既存システム、責任範囲、評価指標が異なるため、全体を一度に整えようとすると調整だけで疲弊します。
最初に必要なのは、小さくても意味のある成功です。たとえば、特定部署の問い合わせ管理を整える、社内資料の検索性を改善する、申請フローの確認待ちを減らす、営業資料の最新版管理を統一する。こうした限定的な改善でも、現場が「これは確かに楽になった」と感じられれば、次の協力を得やすくなります。
DXは、正しい設計だけで進むものではありません。社内に信頼を作りながら進める必要があります。その意味で、最初のテーマ選びは非常に重要です。難易度が高すぎず、効果が見えやすく、関係者が協力しやすい領域から始めるべきです。
ツール選定の前に、運用後の姿を決める
ツール選定に入る前に、「導入後に誰がどのように使うのか」を具体的に決める必要があります。ここが曖昧なまま導入すると、初期設定は完了しても運用が定着しません。特に重要なのは、入力する人、確認する人、判断する人、管理する人の役割を分けて考えることです。
現場で使われないシステムの多くは、機能が足りないのではなく、運用設計が足りていません。誰が更新するのか、どの情報を正とするのか、古い情報をどう扱うのか、入力しない場合に何が起きるのか。こうしたルールが曖昧だと、結局は元のExcelやメール運用に戻ってしまいます。
ツールは業務を自動的に良くしてくれるものではありません。良い業務設計を支えるための器です。だからこそ、DX推進担当はベンダー比較の前に、運用後の行動を描く必要があります。
DX推進にはUX視点が必要になる
DX推進は、社内向けの取り組みであってもUXの問題です。なぜなら、最終的に使うのは人だからです。入力しにくい、探しにくい、意味が分からない、自分にメリットがない。こうした体験が積み重なると、どれだけ正しい仕組みでも使われなくなります。
特に社内システムでは、「使わざるを得ない」状態に甘えてしまうことがあります。しかし、形式上は使われていても、実際には別のExcelで管理されていたり、重要なやり取りはチャットやメールに残っていたりすることがあります。これは、システムが業務の実態に合っていないサインです。
DX推進担当は、利用者を管理対象として見るのではなく、ユーザーとして見る必要があります。どの場面で迷うのか、どこで面倒に感じるのか、どの情報があれば判断できるのか。こうした視点を持つことで、定着しやすい仕組みに近づきます。
まとめ
DX推進担当が最初に整理すべきことは、導入するツールではありません。最初に整理すべきなのは、業務の中で情報がどのように流れ、どこで止まり、誰の判断を遅らせているのかです。ここを見ずにデジタル化を進めると、見た目は新しくなっても、現場の負担や組織の意思決定は変わりません。
DXは、業務をデジタルに置き換える活動ではなく、人と情報と判断の流れを整える活動です。そのためには、経営課題と現場課題をつなぎ、最初から大きく構えすぎず、効果が見えやすい領域から改善を始めることが重要です。
レアテクトでは、単なるツール導入ではなく、業務構造、情報設計、UX視点を含めた改善支援を重視しています。DX推進において「何から始めるべきか」が見えない場合は、まず現場の業務と情報の流れを整理することから始めるべきです。