多言語サイトの翻訳で起きる“アクセシビリティ崩壊”の典型例

2026年 1月 7日

多言語サイトを運用する企業ほど直面しやすい課題が、「翻訳したらアクセシビリティが壊れた」という現象です。結論から言うと、翻訳そのものだけを実装しても、アクセシビリティの構造・技術要件が対応言語で保たれなければ、視覚障害者や支援技術ユーザーにとって使えないサイトになります。本稿では、多言語化プロジェクトにおける典型的なアクセシビリティ崩壊パターンと、実務で必ず押さえるべきポイントを整理します。

アクセシビリティの基本と多言語化の落とし穴

アクセシビリティは「すべてのユーザーがアクセスしやすくすること」です。多言語化では翻訳に集中しがちですが、アクセシビリティは単に文字変換ではなく、支援技術との整合性やインターフェース設計も含みます。例えば、スクリーンリーダーは lang属性や aria属性を頼りに正しい読み上げをしますが、翻訳時にこれらが更新されていないケースが多い点が問題です。

  • 翻訳後も適切な言語宣言(htmlのlang属性)が設定されず、スクリーンリーダーが誤った発音になる。
  • 翻訳による文字数増加でボタンラベルやフォームの UI が崩れ、キーボード操作やフォーカス順序に影響を与える。
  • 翻訳されていない aria-label や alt 属性が残り、視覚障害者に意味の伝わらないコンテンツになる。

これらはアクセシビリティ設計が翻訳フローに組み込まれていないことに起因します。単にテキストを翻訳して公開しても、支援技術ユーザーの体験は確保されません。

典型的な“アクセシビリティ崩壊”パターン

翻訳プロセスでよく見られる具体的な崩壊例を紹介します。

  • 言語タグ不整合:各言語ページで HTML の lang 属性が適切に変更されていないため、スクリーンリーダーが元言語のまま読み上げる。
  • ARIA ラベルの未翻訳:aria-label や aria-describedby が元言語のままで、視覚障害者が機能の意味を理解できない。
  • UI の崩れ:翻訳後のテキスト長が想定以上になり、ボタンやメニューが重なったり切れたりして、キーボードだけでは操作が困難に。
  • コンテンツ順序の混乱:多言語コンテンツが DOM 順序や読み上げ順と一致せず、支援技術ユーザーのナビゲーションが乱れる。
  • 右→左言語の未対応:アラビア語やヘブライ語など RTL 言語を想定したレイアウトや CSS が未実装で、表示・操作性が著しく低下。

これらは、単に翻訳されたテキストに置き換えただけでは回避できず、翻訳工程とアクセシビリティ設計が分離していることが根本原因です。

なぜ多言語アクセシビリティは壊れやすいのか

多言語サイトは構造と内容という二つのレイヤーを同時に保つ必要があります。翻訳は内容を置き換える作業ですが、アクセシビリティは HTML の構造や属性、スクリーンリーダーとの相性に強く依存します。適切に翻訳されたテキストであっても、支援技術との連携が崩れていれば、ユーザーは正しい情報にアクセスできません。

  • 構造的アクセシビリティは言語に関係なく必要であり、多言語でも統一して保つ必要がある点。
  • 支援技術は lang 属性や aria 属性をトリガーに動作するため、これらが適切に管理されていないと読み上げ性能が著しく低下。
  • RTL 言語や文字数増加など、翻訳によるデザイン変動が UI の操作性に直結する。

実務的に抑えるべき対策ポイント

アクセシビリティ崩壊を防ぐには、翻訳プロジェクトにアクセシビリティ要件を組み込み、QA 工程で必ず検証することが必要です。

  • 言語宣言の自動制御:CMS やテンプレートで各言語ページの lang 属性を動的に設定する仕組みを必須化する。
  • ARIA・alt の翻訳管理:翻訳メモリや管理ツールで aria-label や alt 属性の翻訳も漏れなく扱う。
  • 支援技術によるテスト:スクリーンリーダーやキーボード操作での多言語 UI テストを必須 QA 項目に追加する。
  • レイアウト柔軟化:テキスト増加や RTL 対応を考慮した UI 設計を初期段階で検討する。
  • 翻訳フロー内でのアクセシビリティチェック:翻訳工程にアクセシビリティチェックを組み込み、コンテンツ変更時に継続して確認する。

まとめ(実務アクション)

多言語サイトにおけるアクセシビリティ崩壊は、翻訳だけに着目するだけでは避けられません。構造的・技術的要件を翻訳プロセスに組み込み、支援技術に対応した検証フローを確立することが必須です。翻訳前の設計段階からアクセシビリティ要件を定義し、CMS や翻訳管理に落とし込むことで、グローバルなユーザー体験を保証しましょう。

参考リンク

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