ヒューリスティック評価で抜け落ちやすい“心理的負担”の視点

2025年12月14日

UXの現場でよく使われる評価手法のひとつに「ヒューリスティック評価(Heuristic Evaluation)」があります。専門家がUIを見て問題を指摘する効率的な手法ですが、ある重要な視点が欠けてしまうことがあります。

それが「心理的負担(Cognitive Load)」です。

ヒューリスティック評価は“UIの原則に基づいたチェック”であり、ユーザーの心理状態や負荷を直接測るものではありません。そのため、多くの改善が“UIは正しいのに使いにくい”という結果に終わることがあります。

この記事では、ヒューリスティック評価で抜け落ちがちな心理的負担の正体と、実務でどう補正すべきかを解説します。

1. ヒューリスティック評価は「UIの正しさ」を見る手法

最初に確認したいのは、ヒューリスティック評価がUIの原則に照らして問題を発見する手法だという点です。

代表的な原則:

  • 一貫性
  • 認知負荷の軽減
  • エラーメッセージの明確さ
  • ユーザー操作の自由度
  • 視認性

これらはUI構造の良し悪しを判断するには有効ですが、ユーザーがその瞬間にどんな心理状態かまではカバーしません。

2. 心理的負担は「UIの正しさとは別に存在する」

実際のユーザー行動では、正しいUIでも心理的負担が大きいと使われません。

心理的負担が発生する典型例

  • 選択肢が多すぎて選べない
  • 説明文が難しくて理解に時間がかかる
  • 次のステップが予測できない
  • 完了までの負荷が高いと感じる
  • 「間違えたらどうしよう」という不安

これらはUIがガイドライン通りでも発生します。つまり心理的負担は「UIの正しさ」とは別軸の課題なのです。

3. なぜヒューリスティック評価では心理的負担を見落とすのか?

理由はシンプルで、評価者がユーザーの文脈にいないからです。

評価者は:

  • 目的を理解している
  • 対象のサービスをよく知っている
  • 機能の前提知識がある
  • 焦りや不安がない状態で操作する

つまり、評価者は「最も心理的負担の少ない状態で操作している」ため、実際の利用状況とのギャップが大きくなります。

4. UX改善で重要なのは「心理的負担を可視化する」こと

心理的負担は目に見えないため、意識しないと改善に反映されません。そこで、評価に心理的負担を組み込む方法をいくつか紹介します。

① 迷い・躊躇・読み返しを“負荷ポイント”として記録する

ユーザビリティテストの観察で次の行動が見られたら、心理的負担が高い可能性があります。

  • 説明文を読み返す
  • 指を止める(迷い)
  • 何度も前のステップに戻る
  • 入力を途中で止める

② 情報量を「1画面あたりの思考量」で評価する

UIの情報が多すぎると、認知資源を消耗して離脱が増えます。

チェックするポイント:

  • 1画面に目的が複数存在していないか
  • 比較しないと理解できない情報が並んでいないか
  • 専門用語が説明なしに使われていないか

③ 次のステップの予測可能性を評価する

ユーザーは「どうなるか分からない」時に心理的負担を感じます。

例:

  • ボタンを押した後の挙動が想像できるか
  • フォームの残り質問数が分かるか
  • 料金・時間・リスクが明示されているか

5. ヒューリスティック評価 × 心理的負担 が最強の組み合わせ

ヒューリスティック評価はUI改善の出発点として非常に有効です。しかし、それだけでは実際のユーザー体験の“重さ”は見落とされます。

そこで最も強い流れが次です。

  1. ヒューリスティック評価 → UI構造の問題を洗い出す
  2. 心理的負担の観点 → 実際の利用文脈での困りごとを補足
  3. ユーザビリティテスト → 行動として確認する

この3ステップを組み合わせることで、“UIは正しいのに使いにくい”問題を根本から解消できます。

まとめ

ヒューリスティック評価の最大の弱点は、心理的負担という「見えない重さ」を評価できないことにあります。

UX改善で重要なのは、「正しいUI」ではなく「使ってもらえるUI」にすること。そのためには、心理的負担という視点を高い解像度で組み込む必要があります。

UI構造だけでなく、ユーザーの感情・不安・迷いをセットで扱うこと。これがUXを成功させるための鍵です。


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