定性データと定量データ、どちらから見るのが正解?
2025年12月11日
UX改善やプロダクト改善の議論になると、必ずと言っていいほど出てくる問いがあります。
「定性と定量、どちらから見ればいいのか?」
実務では、この問いに対する理解が曖昧なまま議論が進み、調査の順番が間違っているせいで判断がブレるというケースがよく起こります。
結論から言うと、正解はひとつではありません。ただし、“目的によって順番が決まる”という明確なルールがあります。
1. そもそも「定性」と「定量」は何を明らかにするものか?
まずはデータの役割を整理します。
定量データ(Quantitative)
- 何が起きているか(現象)を捉える
- 数値・割合・傾向・セグメントで把握する
- GA4・BIツール・CV率・離脱率など
= “問題の発生地点” を見つけるのが得意
定性データ(Qualitative)
- なぜ起きているか(理由)を理解する
- ユーザーの行動・葛藤・意図を明らかにする
- インタビュー・ユーザビリティテスト・観察など
= “原因の理解” が得意
この役割の違いを理解していないと、分析の順番を間違え、判断が迷走します。
2. 目的によって順番は変わる —— 一般的な原則
原則①:問題発見は「定量 → 定性」
プロダクト全体の課題を特定したいときは、まず定量から入るのが最適です。
- どこで離脱しているか?
- 誰が戻ってこないのか?
- コンバージョンに影響している要素は何か?
定量が “地図”、定性が “現地調査” の役割。
原則②:改善深掘りは「定性 → 定量」
特定の画面・導線・行動理由を深掘りしたいときは、定性から入るのが有効です。
- なぜこのUIで迷うのか?
- なぜこの文言を誤解するのか?
- なぜ比較行動が途中で止まるのか?
定性で仮説をつくり、その仮説がどの程度の規模で発生しているかを定量で確認します。
定性が “仮説の生成”、定量が “仮説の検証”。
3. 最も避けるべきは「どちらか一方だけ」で判断すること
UXの失敗は、以下どちらか片方だけで判断したときに起こります。
定量だけの場合(よくある失敗)
- 数値は分かるが理由が分からない
- 改善案が推測のままになる
- 数値だけ追っても改善が成功しない
例:CV率が低い。だからボタンを大きくする。 → 原因は「文言の誤解」だった、というケースは非常に多い。
定性だけの場合(よくある失敗)
- 数名のインタビュー内容を全体の意見と誤解する
- 改善の優先順位が決められない
- 「声の大きいユーザー」に引っ張られる
例:5名中4名が迷っていた。だからUIを全面改修する。 → 実際は全体の2%しか該当しない行動だった、というケースも多い。
4. 実務では「定量 → 定性 → 定量」が最も強い流れ
プロダクト改善の標準的なプロセスは次のようになります。
- 定量(現象の特定)
例:3ステップ目で離脱率が急増している - 定性(理由の理解)
例:ユーザーが入力ルールを誤解していた - 定量(影響範囲の確認)
例:全ユーザーの40%に発生している
この流れだと、改善案が「根拠 → 優先順位 → 規模感」をすべて満たすため、意思決定が非常に速くなります。
5. ではGA4はどちらなのか?
GA4は完全に“定量”です。 ただし、次のように“定性の入り口”にもなり得ます。
- 異常値の検出 → 定性調査のテーマになる
- 行動フロー → ユーザビリティテストの観察ポイントになる
- セグメント別差分 → インタビュー対象の選定に役立つ
つまり GA4 は、定量の役割に徹しつつ、定性調査を正しく導くツールです。
6. 「どちらから見るのが正解?」の本当の答え
UX実務の最適解は次のひと言に尽きます。
“問いによって順番を変える”
問題発見 → 定量から
全体把握・優先度決定が目的の場合。
原因理解 → 定性から
UIや行動の理由を探る場合。
改善計画 → 定量と定性の往復
一度きりではなく、行き来しながら精度を高める。
まとめ
定性と定量のどちらから見るべきかという問題は、調査の優先順位や目的を理解すれば迷いません。
定量は「何が起きているか」 定性は「なぜ起きているか」
この役割を押さえたうえで、目的に応じて順番を決めることで、UX改善は圧倒的にスムーズになります。