“ユーザー調査=アンケート”で終わらせないための質問設計術
2025年12月10日
UXリサーチの相談で最も多いのが、「とりあえずアンケートを作ってみたのですが…」というパターンです。しかし、多くの場合、アンケートだけでは行動の理由は分からず、UX改善の判断材料にもなりません。
この記事では、「ユーザー調査=アンケート」で終わらせないための質問設計の考え方を、実務的にまとめます。
1. アンケートだけでは“行動理由”は取れない
アンケートは便利な手法ですが、UXリサーチでは限界があります。理由は次の通りです。
- 回答が主観に偏りやすい(実際の行動と一致しない)
- 曖昧な記憶で答える(直近の行動でも正確に説明できない)
- 設問の作り方で回答が誘導される
- 課題の“本当の原因”が分からない
UX改善の意思決定に必要なのは「ユーザーがなぜその行動をしたのか」という因果の理解。アンケートはその入り口にすぎません。
2. 質問設計の最初のステップは「判断したいこと」の整理
調査は、質問を作る前に「何を判断したいのか」を定義しなければ成立しません。
判断を導くための質問の例
- ✔ なぜこのページで離脱しているのか知りたい → 行動理由を聞く質問が必要
- ✔ 商品が比較されていない理由を知りたい → 比較プロセスを聞く質問が必要
- ✔ フォームが完了しない理由を知りたい → 入力プロセスと詰まりポイントを聞く必要
= 質問は目的から逆算して作る。
3. 良い質問は「具体」「時系列」「行動」の3つが揃っている
UXリサーチでは、抽象的な質問はほぼ役に立ちません。ユーザーの主観よりも、できるだけ行動の“事実”に近い情報を得る必要があります。
① 抽象ではなく「具体」
- ❌ 悪い例:使いにくいと感じましたか?
- ⭕ 良い例:どの部分で迷いましたか?
② 静止ではなく「時系列」
- ❌ 悪い例:このページを見てどう思いましたか?
- ⭕ 良い例:最初に何を見て、次にどこへ移動しましたか?
③ 主観ではなく「行動」
- ❌ 悪い例:満足していますか?
- ⭕ 良い例:最後に利用したのはいつでしたか?その時どんな行動をしましたか?
行動・事実・時系列この3つが揃うと、アンケートでもUXの判断材料が増えます。
4. 「誘導質問」を避けるだけで調査の質は一気に上がる
UXリサーチで最も避けたいのが、ユーザーの回答を歪めてしまう誘導質問です。
誘導質問の例
- ❌ この機能は便利だと思いますか?(便利だと想起させている)
- ❌ このUIが改善されたら使いやすくなりますか?(改善を前提にしている)
改善例
- ⭕ この機能を最後に使ったのはいつですか?
- ⭕ 似た機能を使うとき、普段はどのアプリを使いますか?
ポイントは、評価ではなく事実に近づく質問を作ることです。
5. アンケートを“調査の起点”とし、次の調査につなげる
アンケートは万能ではありませんが、UXリサーチでは非常に有効な「起点」になります。
アンケートで得るべきは、次に行うべき調査の方向性です。
アンケート → 次の調査の接続例
- ✔ 認知経路を聞く → 行動ログで深掘り
- ✔ 離脱理由を聞く → ユーザビリティテストで確認
- ✔ よく使う機能を聞く → 機能別の定量レポートと照合
アンケート単独で完結させるのではなく、次の調査につなげる設計が重要です。
6. 質問設計は「減らすほど質が上がる」
UX初心者がやりがちなのが、質問を増やしすぎることです。質問数が増えるほど、回答の精度は下がり、分析も難しくなります。
良いアンケートは、質問数が少なくても判断できるように設計されています。
質問を減らすためのチェック
- ✔ この質問は、判断したい内容に必要か?
- ✔ 他の質問と重複していないか?
- ✔ 行動を説明するうえで本当に重要か?
質問が3〜7問で成立するアンケートは、UX調査としても質が高い傾向があります。
7. 最後に:UXリサーチは「問いの質」で決まる
UXリサーチの成功を左右するのは、調査手法ではなく問いの質です。
どれだけ高度な分析をしても、曖昧な問いからは曖昧な答えしか返ってきません。逆に、適切な問いを作ることができれば、アンケートでも定性調査でも、意思決定につながる強い示唆が得られます。
UX改善を進めたいとき、まず見直すべきは調査手法ではなく、質問の設計です。