「調査ばかりで進まない」UXプロジェクトを動かすリサーチ設計

2025年12月 9日

UXプロジェクトで最もよく聞く悩みのひとつが、「調査ばかりしていて、プロダクトが進まない」というものです。ユーザーインタビュー、アンケート、ログ分析…有益な活動のはずが、なぜか意思決定につながらないまま時間だけが過ぎていく。

この記事では、UXリサーチの「やりすぎ」「目的迷子」を避け、プロジェクトを前に進めるためのリサーチ設計方法を解説します。

1. リサーチが“止まる理由”は明確である

UXプロジェクトが止まるときの典型パターンは次の3つです。

  • ① 調査の目的が曖昧(何を判断したいのかが定まっていない)
  • ② 必要な調査の量が過剰(網羅的に集めようとしてしまう)
  • ③ 調査結果が意思決定のテーブルに載らない(まとめ方の問題)

特に多いのは、目的よりも「手段としての調査」が前に出てしまうケースです。

UXリサーチは「調査すること」ではなく「判断すること」が本質です。この前提が抜け落ちると、延々と調査が行われ、結論が出ないままプロジェクトが停滞します。

2. 最初に定めるべきは「判断したい問い」

プロジェクトを動かすリサーチ設計では、調査対象や手法の前に、まず「判断したい問い(Decision Question)」を定義します。

判断したい問いの例

  • 新規ユーザーが最初に離脱している理由は何か?
  • フォームの完了率が低いのは、入力項目数か、見つけにくさか?
  • 検索機能を改善すべきか、ナビゲーション自体を再構成すべきか?

これらの問いを明文化することで、必要な調査が“自動的に”決まっていきます。

= UXリサーチは、課題を「調査ではなく判断」にすることから動き出す。

3. 判断に必要な「最小限のリサーチ」を決める

UXリサーチの国際的ガイド(W3C WAI など)でも、ユーザー理解は段階的に深めることが推奨されています。

特にプロジェクト初期で重要なのは、“必要最小限のリサーチ”を組み合わせることです。

最小パッケージの例

  • ① 行動ログ(定量)で現象を特定
  • ② ユーザビリティテスト(定性)で理由を確認
  • ③ 1時間のステークホルダーインタビューで制約を把握

この3つが揃えば、多くのUX判断は成立します。

4. 調査結果は「結論 → 根拠 → 余談」でまとめる

UXリサーチのもうひとつの落とし穴が、結果のまとめ方が“調査レポート”になってしまうことです。

プロジェクトを動かすために必要なのは、レポートではなく意思決定できる1枚の結論です。

良いまとめ方の例

【結論】フォーム完了率が低いのは、項目数ではなく「必須項目の理解難易度」である。

  • 【根拠①】行動ログ:離脱の85%が3番目の必須項目で発生
  • 【根拠②】ユーザビリティテスト:5名中4名が入力条件を誤認
  • 【根拠③】ステークホルダーインタビュー:文言変更が技術的に可能

この構造だと、調査結果がそのまま次のアクションになるため、プロジェクトが止まりません。

5. 「調査のための調査」を避けるチェックリスト

リサーチが暴走しないために、プロジェクト開始時に以下の質問に答えます。

  • ✔ この調査は、どの“判断”を行うためのものか?
  • ✔ 判断に必要な最小限の情報は何か?
  • ✔ 今ある情報で、仮説の8割は作れていないか?
  • ✔ この調査の結果が出たら、次に何をするのか?

これらに答えられない場合、その調査は「やらなくても良い調査」である可能性が高いです。

6. プロジェクトを進めるための理想的なリサーチ設計

プロジェクトを止めないための基本フローは次の通りです。

  1. 判断したい問いを1行で定義
  2. 仮説を3つだけ作る
  3. 最小限のリサーチで仮説を“削る”
  4. 次の判断ができたら即アクションへ
  5. 必要なら追加調査を行う(段階的に)

リサーチを最初から完璧にする必要はありません。大切なのは “動かしながら学ぶ”という姿勢です。

まとめ

UXプロジェクトが動かなくなる最大の理由は、調査量ではなく調査の「目的の不在」です。

「何を判断したいのか」を先に決め、その判断に必要な最小限の情報だけを取りに行く。これが、プロジェクトを進めるUXリサーチ設計の基本です。

調査を重ねるほど動けなくなるのではなく、調査が意思決定を生むプロセスに変えていくことが重要です。


参考(公式リンク)

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