「誰のための改善か」を定義しないと配慮は届かない

2025年12月 8日

アクセシビリティやUX改善の議論で「配慮したつもりなのに、ユーザーには届いていない」という状況はよく発生します。その原因の多くは、改善の対象となるユーザーを定義していないことにあります。

この記事では、アクセシビリティ・UX設計の実務において「誰のための改善か」を明確にしないと、なぜ配慮が機能しないのかを整理します。

1. すべてのユーザーを満たす改善は存在しない

アクセシビリティ対応やUX改善は「誰にとっての問題か」を明確にしなければ成立しません。なぜなら、特性や状況の異なるユーザーが存在するからです。

  • 視覚障害があるユーザー
  • 弱視・コントラストが必要なユーザー
  • 音声読み上げユーザー
  • 高齢者
  • キーボード操作のみのユーザー
  • スマホで片手しか使えないユーザー
  • 外国語話者

これらは同じ「アクセシビリティの話題」に見えても、解決すべきUIの前提がまったく異なります。

=「誰のための改善なのか」を定義しなければ、改善は的外れになる。

2. 多くの“配慮ミス”はターゲット不明から生まれる

例①:文字を大きくしたのに読みにくい

弱視ユーザー向けのつもりが、コントラストの改善をしていなかった。

例②:色覚バリアフリーにしたはずなのに見分けにくい

色以外の手がかり(形・ラベル)が用意されていなかった。

例③:音声読み上げ用のaria-labelを追加したのに、逆に混乱を生む

音声ユーザーの動線を理解していないまま追加してしまい、実際の読み上げ順とズレてしまう。

どれも「この改善は、どのユーザーを助けるためのものか」を整理していれば防げるものです。

3. 最初に定義すべきは「利用状況」と「操作方法」

W3C WAI(Web Accessibility Initiative)は、アクセシビリティ設計の最初のステップとして、ユーザーが置かれる状況(situations)操作方法(modes of interaction)を理解する重要性を示しています。

参考:W3C:How People with Disabilities Use the Web

ユーザーを「特性」ではなく「状況」で捉える

  • 屋外で画面が見づらい(高コントラストが必要)
  • 手が塞がっている(音声操作が必要)
  • 老眼で小さな UI が読めない
  • 短時間で情報を得たい(見出し階層が重要)

特性と状況は常にセットで考える必要があります。

操作手段によって必要なUIは変わる

  • スクリーンリーダー(VoiceOver / TalkBack)
  • キーボード操作
  • タッチ操作(片手 / 両手)
  • 音声コントロール

同じページでも、操作手段によって全く別の見え方・使われ方をします。

=ユーザーの操作手段を定義せずに改善すると、視覚中心設計になりがち。

4. 明確なターゲット設定があると「改善の評価」もできる

アクセシビリティ改善は「成果が見えづらい」という声がよくあります。しかし、評価できないのは改善の対象が定義されていないからです。

例えば、ターゲットが弱視ユーザーなら:

  • コントラスト比の向上
  • テキストサイズの設定
  • ズーム時のレイアウト崩れの有無

音声ユーザーなら:

  • 読み上げ順の整理
  • aria-label の適切性
  • フォームエラー文の位置

ターゲットが定まると、改善すべき項目も評価軸も明確になります。

5. 「全員のため」は、誰のためにもなっていない可能性がある

アクセシビリティやUX改善は、「できるだけ多くのユーザーに配慮する」という考え方が基本です。しかし実務では、

“特定のユーザーの課題を具体的に解消すること” でしか、配慮は機能しません。

結果、以下のような現象が起きます。

  • コンテンツが抽象的になり、問題が解消されない
  • UIが複雑化し、逆にわかりづらくなる
  • 読み上げ機能で理解できない UI が増える

全員に向けた設計は、本質的には「ターゲット不在の設計」になりやすいのです。

6. まずやるべき実務アクション

① どのユーザーの課題を解決するのかを1行で言語化する

例:「弱視ユーザーが屋外でも商品ページを読めるようにする」

② そのユーザーの操作環境・デバイス・状況を想定する

例:「スマホ・片手操作・強い日差し下」

③ 操作手段(VoiceOver / キーボード / タッチ)を書き出す

これにより、必要なUI要件が明確になります。

④ W3C の実例を参照しながらガイドライン化する

W3C:Accessibility Principles

ターゲットが明確であれば、改善は必ず成果に結びつきます。

まとめ

アクセシビリティ改善は「手当たり次第に配慮すること」ではありません。誰の課題を解決したいのかを定義し、そのユーザーの状況・操作方法・制約を理解することで、はじめて“配慮が届く”改善が可能になります。

「誰のための改善か」これを最初に定義することが、UX改善とアクセシビリティ対応の第一歩です。


参考(公式リンク)

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