知ってましたか?音声ユーザーの、ウェブサイトの使い方
2025年12月 7日
あなたのウェブサイトは、視覚中心のユーザーだけが使っているわけではありません。実は、音声による読み上げ・音声コントロールを使ってサイトを利用するユーザーが一定数存在します。
しかし多くのUI/UX担当者やマーケティング担当者は、この「音声ユーザー」の存在と具体的な操作方法を知りません。この記事では、Apple・Google・W3Cの公式ドキュメントをもとに、音声ユーザーがスマートフォンやウェブサイトをどのように操作しているかを整理します。
1. 音声ユーザーとは「声だけで操作する人」ではない
「音声操作」というと Siri や Google アシスタントを連想しがちですが、音声ユーザー=音声アシスタント利用者ではありません。
Apple の VoiceOver、Google の TalkBack は次のようなことを可能にします:
- 画面を見ずにスマホを操作する
- アプリ内の要素を読み上げ、スワイプ+タップで操作する
- ウェブサイトを見出しやリンク単位でナビゲーションする
つまり、音声ユーザーとは:
- 視覚障害のある方
- 弱視・高齢者
- 明るすぎて画面が見えない状況
- 片手が塞がっている・育児中・移動中などの状況
といった、誰もがなり得るユーザー層を含みます。
2. iOS(VoiceOver)での操作:画面を見ずにUIを探索する
Apple の公式ガイドでは、VoiceOver について「画面を見ずに iPhone を使用できる」と説明されています。
iPhone ユーザガイド:VoiceOver をオンにして練習する
主な操作方法(公式仕様ベース)
VoiceOver がオンのとき、タッチ操作の意味が変わります。
- 右スワイプ:次の項目へ移動して読み上げ
- 左スワイプ:前の項目へ戻る
- ダブルタップ:選択中の項目を「押す」(リンク・ボタンなど)
- 2本指スワイプ:画面のスクロール
ジェスチャーの詳細は、次の公式ドキュメントで説明されています。
iPhone ユーザガイド:VoiceOver ジェスチャを使う
Mac 向けの VoiceOver ガイドでは、ウェブページを「DOM(Document Object Model)単位」や「グループ単位」でナビゲーションできることが明記されています。
VoiceOver ユーザガイド:Web ページをブラウズする
3. Android(TalkBack)での操作:見出し・リンクで移動する
Google の TalkBack は、Android 向けのスクリーンリーダーです。公式説明では「画面を見ずに Android デバイスを操作できる」ことが案内されています。
Android アクセシビリティ ヘルプ:TalkBack の使い方
TalkBack の代表的な操作
- 右スワイプ:次の項目へ移動して読み上げ
- 左スワイプ:前の項目へ戻る
- ダブルタップ:選択中の項目を実行
- 2本指でドラッグ:画面のスクロール
ジェスチャーの一覧は、公式ヘルプで公開されています。
Android アクセシビリティ ヘルプ:TalkBack ジェスチャ
また、TalkBack には「読み取りコントロール」やメニューがあり、見出し・リンク・フォームコントロール単位で Web コンテンツを移動できます。
Android アクセシビリティ ヘルプ:TalkBack メニューと読み取りコントロール
4. 有名アプリや OS 全体の操作も「音声+スワイプ」で完結している
VoiceOver / TalkBack は OS に統合されているため、標準アプリや多くの有名アプリもそのまま操作できます。
- ホーム画面のアイコンにフォーカス → アプリ名を読み上げ → ダブルタップで起動
- メッセージアプリでスレッド一覧を読み上げ → ダブルタップで開く
- ブラウザでリンク一覧を読み上げ → リンクテキストに応じてページへ移動
iPhone では、VoiceOver と外付けキーボードを組み合わせた操作方法も公式に紹介されています。
iPhone ユーザガイド:外付けキーボードで VoiceOver を使う
5. ウェブサイトの使い方:視覚ではなく「言語」と「構造」で理解している
Apple / Google / W3C の資料から分かるのは、音声ユーザーがウェブサイトを次のように使っているという点です。
① DOM 順(HTML の順番)で読み上げられる
見た目の配置ではなく、HTML の並び順がそのまま読み上げ順になります。レイアウトだけを CSS で入れ替えている場合、視覚と読み上げの順番が食い違うことがあります。
② 見出しでページを「飛ばし読み」する
VoiceOver や TalkBack には、見出し単位で移動する機能があり、h1〜h6 の見出しを使ってページ構造を把握します。見出し階層が崩れていると、ページ全体の「地図」が失われます。
③ リンクテキストだけで行き先を判断する
スクリーンリーダーはリンクテキストを読み上げるため、「こちら」「詳しく見る」だけでは行き先が分かりません。「料金を見る」「製品一覧へ」のように、リンクテキストだけで意味が通じることが重要です。
④ フォームはラベル・エラーの位置が UX を決める
W3C の資料でも、フォームは代表的なアクセシビリティ課題として挙げられています。ラベルと入力欄の関連付け、エラー文言の位置・読み上げ順が、音声ユーザーの完了率に大きく影響します。
W3C WAI:How People with Disabilities Use the Web
6. なぜ多くの制作者はこの事実を知らないのか?
- 自分自身が音声ユーザーではない
- 検証プロセスで VoiceOver / TalkBack を使ったテストを行っていない
- デザイン確認が「見た目の確認」に偏りがち
その結果、「音声ユーザーが自社サイトをどう使っているか」をイメージできないまま、UI/UX の意思決定が行われています。
7. 音声ユーザーを前提にすると UX が全体的に良くなる
一方で、音声ユーザーを意識した設計は、すべてのユーザーにとっての UX 向上につながります。
- 見出し構造を整える → 情報が探しやすくなる
- ボタン名・リンク名を明確にする → 迷いが減る
- フォームのラベルやエラー表示を整理する → 入力しやすくなる
- DOM 順を整理する → レイアウト自体がシンプルになる
W3C の「Accessibility Principles」でも、アクセシビリティは障害のある人だけでなく、すべてのユーザーにとってのメリットがあると明言されています。
W3C WAI:Accessibility Principles
8. まずは「3分だけ」音声で自社サイトを触ってみる
もしまだ VoiceOver や TalkBack を使ったことがない場合、まずは次のステップを試してみてください。
- iPhone で VoiceOver をオンにする
- 自社サイトのトップページを開く
- 右スワイプで読み上げを進めてみる
- 見出しだけでページの概要を掴めるか試す
それだけでも、「音声ユーザーにとって自社サイトがどう見えているか」の感覚が掴めてきます。
音声ユーザーの存在を知ることは、アクセシビリティ対応であると同時に、UX設計の前提条件をアップデートすることでもあります。