アクセシビリティ対応を“義務”で終わらせないために必要な視点
2025年12月 4日
アクセシビリティは年々注目され、自治体・大企業では対応が必須になっています。しかし現場では、担当者が口を揃えて次のように言います。
「義務だからやるけれど、正直どこまでやるべきか分からない」
この状態では、アクセシビリティは“コスト”でしかなく、UX改善にもビジネス成果にもつながりません。
この記事では、RARE TEKTの上野が支援現場で実際に効果が出た、“義務対応を価値に変えるための視点”を整理します。
1. アクセシビリティは「支援が必要な人のため」ではなく「全ユーザーのUX向上」のため
アクセシビリティを“特定の人のためのもの”と捉えると、優先度は上がりません。しかし実務での本質は、次の通りです。
アクセシビリティ改善は、全ユーザーのUXを底上げする。
たとえば:
- 読みやすい文字 → すべてのユーザーにとって理解が早くなる
- 押しやすいボタン → 誤操作が減り、CVが上がる
- 明確な見出し構造 → 情報が整理され、迷わなくなる
アクセシビリティ対応は“特別なこと”ではなく、UX改善そのものです。
2. 「どのユーザーの負担を減らすか」を明確にしないと価値が生まれない
義務対応が失敗する最も大きな理由は、以下が曖昧なまま進めてしまうことです。
「誰にとって」使いやすくするのか?
対象を決めると、改善内容は具体になります。
- 高齢ユーザー → 小さい文字・コントラスト不足を優先
- 音声ユーザー → 読み上げ順・aria補足を優先
- 色覚特性ユーザー → 色依存の改善を優先
- 外国語ユーザー → 文体・構造化を優先
「義務対応」から「価値ある改善」に変わる瞬間です。
3. “WCAGの全部対応”を目指すと失敗する
WCAGは重要な指針ですが、そのまま導入しようとすると多くの企業で止まります。
理由は明確で、
- 項目が多い
- 解釈が難しい
- ビジネスとの紐付けが弱い
最初にやるべきは、「ビジネスインパクトの大きい項目から着手する」ことです。
RARE TEKTの支援では次の順番で改善します。
- 読みやすさ(コントラスト・フォントサイズ)
- 操作しやすさ(ボタン・タップ領域)
- 情報構造(見出し階層・文書構造)
- 理解しやすさ(文章の明瞭化)
- 読み上げ対応(aria / DOM順)
この順番はUX改善の優先度と一致しており、ビジネス成果にも直結します。
4. アクセシビリティを“品質の定義”として扱う
義務対応ではなく価値にするには、アクセシビリティをデザイン品質の要素として扱う必要があります。
つまり、
- 読みやすいか
- 分かりやすいか
- 操作しやすいか
- 情報が整理されているか
これらを“品質”として管理し、デザインチェックやリリース前レビューに組み込みます。
アクセシビリティは「専門対応」ではなく、基本の品質管理に含まれます。
5. “アクセシビリティ=コスト”の誤解を解くには、効果を見える化する
義務対応だと捉えられがちな理由の1つが、成果が見えづらいことです。
しかし、次の指標はアクセシビリティ改善と強く相関します。
- 離脱率の低下
- フォーム完了率の改善
- 検索回数(内部検索)の減少
- 閲覧ページ数の増加
- 問い合わせ数の減少
つまり、アクセシビリティは数値改善に直結する“投資”です。
明日からできる実務アクション
- 対象ユーザーを明確に定義する
- WCAGは“全部対応”ではなく“優先度順”に扱う
- アクセシビリティをUX品質としてチェックリスト化する
- 読みやすさ・操作しやすさから改善する
- 改善による数値変化(離脱率・CVR)を記録する
アクセシビリティは、義務対応ではなくUX改善の中心です。価値ある改善に変えるためには、「誰の負担を減らすか」を定義し、優先度の高い改善から取り組むことが最も効果的です。