スクリーンリーダーで読まれる“順番”を設計したことがありますか?
2025年12月 2日
UIデザインでは「見た目の並び」は意識されますが、“音声読み上げユーザーがどう情報を受け取るか”は後回しになりがちです。
しかし実務では、スクリーンリーダーの読み上げ順が悪いだけで情報が理解できず離脱するユーザーが確実に発生します。アクセシビリティの中でも、最も影響が大きいのが「読み上げ順の設計」です。
この記事では、RARE TEKTの上野が支援現場で繰り返し見てきた“読み上げ順の問題”と、改善のための実務ポイントをまとめます。
1. 見た目と読み上げ順は一致しないことがある
スクリーンリーダーは、画面の“見た目”ではなくDOM(HTML構造)の順番を読み上げます。そのため、以下のケースでは見た目と読み上げ順がズレます。
- CSSのフレックス・グリッドで並び替えている
- position:absolute で任意の位置に配置している
- 装飾目的のdivが多く、意味構造が崩れている
- モバイルとPCで表示順を変えている
見た目が美しくても、読み上げユーザーには“別の順番”で伝わっていることがあります。
2. 読み上げ順のズレが引き起こす問題
読み上げ順が悪いと、ユーザーの理解は大きく阻害されます。
- 情報の前後関係が崩れて意味が分からなくなる
- 見出しと本文が離れて読み上げられる
- ボタンの文脈が理解できない(突然読み上げられる)
- フォーム入力の手順がめちゃくちゃになる
特にフォームでは、ラベル → インプットの順で読まれないと入力が極めて難しくなります。
3. 読み上げ順を整えるための基本原則
読み上げ順の改善は、複雑な実装は不要で、以下の原則を守るだけで劇的に改善します。
① DOMの順番を“意味の順番”に合わせる
視覚的な並びに合わせるのではなく、文章として読んだときに自然な順番にHTMLを並べます。
UIで位置を変えたい場合は、HTMLを動かすのではなく、CSSで柔軟に調整します。
② 見出し階層(h1〜h6)を正しく使う
見出し階層は「読み上げの構造」をつくります。
- h1はページ全体のタイトルに1つ
- h2は大見出し
- h3はその下の小見出し
階層が崩れていると、読み上げで“文脈の飛び”が発生します。
③ aria-label / aria-labelledby を適切に使う
見た目だけでは文脈が伝わらない場合、aria-* 属性で意味を補うことが重要です。
例:
- リンク先が分からないボタン → aria-labelで補足
- アイコンボタン → aria-label必須
- 複数要素で意味を構成 → aria-labelledbyを活用
④ フォーム要素は label と input を正しく関連付ける
フォームは読み上げUXに最も影響します。
- label と input を for / id で紐付ける
- プレースホルダーだけで説明しない
- エラー文言は input の直後に置く
この3つを守るだけで、音声ユーザーの入力体験は大幅に改善します。
4. 読み上げUXを測る“簡易テスト方法”
スクリーンリーダーは専門知識がないと難しいと思われがちですが、簡単なテストならすぐにできます。
おすすめは次の2つです。
① iPhoneのVoiceOverで軽くチェックする
iOSはアクセシビリティが強力で、テストも簡単です。
- 設定 → アクセシビリティ → VoiceOver をON
- サイトを開き、スワイプで読み上げ順を確認
② Chromeのスクリーンリーダー拡張で確認
PCでも簡易テストができます。
- 読み上げ順
- ボタンの文脈
- 見出しの構造
これだけでも、多くの問題点がすぐ見つかります。
5. 読み上げ順の改善は“UX全体の改善”につながる
読み上げ順を整えることで、同時に次のUX改善が得られます。
- 情報構造が明確になる → 視覚ユーザーにも読みやすい
- フォームの順序が整う → 入力しやすくなる
- グルーピングが最適化される → 意味理解の負荷が減る
結果として、読み上げユーザーだけでなくすべてのユーザーのUXが向上します。
明日からできる実務アクション
- HTMLの順番が“意味の順番”になっているか見直す
- 見出し階層(h1〜h6)を正しく整理する
- アイコンボタンには aria-label を必ず入れる
- フォームは label / input / エラー文言の順に統一する
- VoiceOverで軽く読み上げチェックをする
スクリーンリーダー対応は専門的に見えますが、実務で最初にやるべきことはシンプルです。「意味の順番」をHTMLで素直に表現するだけで、大半の課題は解決します。