デザイナーが誤解しやすい『コントラスト比』の落とし穴
2025年12月 1日
アクセシビリティ改善の現場で最も誤解が多いテーマが「コントラスト比」です。デザイナーが意図的に調整した“美しいトーン”が、実は読みづらさや離脱の原因になっているケースは珍しくありません。
この記事では、RARE TEKTの上野が実務で繰り返し遭遇してきた「コントラスト比にまつわる誤解」と、その落とし穴を整理します。
1. コントラスト比は“デザインの好み”ではなく“可読性の最低基準”
まず押さえておくべきポイントは、コントラスト比は「見やすいデザインを作るための指標」ではなく、“最低限の可読性を守るための基準”だということです。
WCAGでは以下の基準が定義されています。
- 通常テキスト:4.5:1 以上
- 大きなテキスト(18pt以上 or 太字14pt以上):3:1 以上
よくある誤解は、「見た目が問題なければOK」という考え方。しかし、人によって視力・色覚・年齢・デバイス環境が大きく異なるため、見た目だけで判断すると“読めないユーザー”が確実に出ます。
2. “背景色 × テキスト色”だけ見ていれば良いわけではない
コントラスト比をチェックする際、多くのデザイナーが「背景色と文字色」のみを比較します。しかし、実務ではこれだけでは不十分です。
よく見落とされるポイントは以下の3つです。
- 画像の上に載せたテキスト → 画像の明暗によって読めない部分が生まれる
- 透過オーバーレイ → 透明度の変化で実際の比率が変わる
- ホバーやアクティブ時の色変化 → 状態によって基準を下回る
実務でトラブルが起きるのは「静的な配色」ではなく、“状態変化後の読みにくさ”にあります。
3. コントラスト比ツールの“数字だけ”を信じると危険
WCAG基準を満たしているのに「読みにくい」と感じるケースがあります。これは、コントラスト比が“最低基準”であり、“適正値”ではないためです。
例えば、4.5:1 を満たしていても:
- 細いフォントを使っている
- 文字サイズが小さい
- 行間が狭い
といった条件が加わると、実際の可読性は大きく下がります。
コントラスト比は「数字だけで判断しない」が鉄則です。
4. “ブランドカラーの忠実再現”と“可読性”は両立できる
ブランドカラーが薄い色の場合、デザイナーは「アクセントカラーを薄めに使いたい」という強い意図を持っています。しかし、そのまま文字色・ボタン色に使用すると実務で大きな問題になります。
実際、次のような調整でブランドを損なわずに可読性を高めることが可能です。
- ボタン文字はブランドカラーではなく“黒寄りの色”にする
- 背景とテキストの関係だけ変える(カラー自体は変えない)
- 重要情報に限って濃度を+10%〜20% 調整する
ブランドを守りながらアクセシビリティを担保する方法は多く存在します。
5. “色だけで伝えない”はコントラスト比よりも重要な場面がある
デザイナーが見落としがちなのが、「色だけで情報を伝えない」という原則です。
- エラーを赤色だけで示す
- 選択状態を色の違いのみで示す
- 棒グラフの区別を色だけに依存する
コントラスト比をクリアしていても、色覚特性を持つユーザーには“意味の違い”が伝わりません。
重要なのは、形・アイコン・テキストなど、複数手段で伝えることです。
6. コントラスト比を改善するとUX全体が向上する
コントラスト改善はアクセシビリティだけでなく、ビジネスの指標にも影響します。
- 読みづらさの解消 → 離脱率の低下
- ボタンの視認性向上 → クリック率の改善
- フォームの読みやすさ向上 → CVR改善
実務では、「見やすい=ストレスが少ない」ため、UX全体が底上げされます。
明日からできる実務アクション
- 背景色・文字色と“状態変化”のコントラストを確認する
- 画像上のテキストには必ずオーバーレイを敷く
- 4.5:1 を満たしていても読みづらい場合は、太字化・サイズ調整を行う
- 重要情報は色だけで伝えず、形・文言を併用する
- ブランドカラーを維持しつつ、濃度・組み合わせで可読性を確保する
コントラスト比は「守るべき最低ライン」であり、実務では状況に応じて“より良い可読性”を追求することが重要です。