“誰でも使える”をどう定義する?アクセシビリティ設計の最初の一歩
2025年11月30日
アクセシビリティという言葉はよく聞くものの、「誰でも使える状態とは何か?」を正確に定義できる企業は多くありません。
結果として、「なんとなく配慮しているつもり」のUIが増え、実際のユーザーの負担が改善されないケースが多く見られます。
この記事では、RARE TEKTの上野がアクセシビリティ改善の現場で繰り返し感じてきた、“最初に必ず定義すべきこと”をまとめます。
1. 「誰でも使える」は“全員に最適化する”ことではない
アクセシビリティ対応というと、「すべての人に完璧に対応しなければいけない」と考えがちですが、これは誤りです。
本来のアクセシビリティは、“特定の状況で困難が生じるユーザーの障壁を減らす”という考え方です。
つまり、以下のような状態をなくすことが目的です。
- 見えづらい(視覚)
- 聞こえづらい(聴覚)
- 操作しづらい(運動)
- 理解しづらい(認知・学習)
- デバイスや環境の制約で使いづらい(環境依存)
アクセシビリティは「万人最適」ではなく、“困っているユーザーの困りごとを減らす設計”です。
2. 最初にやるべきは“対象ユーザー”の定義
アクセシビリティ対応が進まない企業のほとんどは、改善の前に次の問いが曖昧です。
「どのユーザーの課題を優先して解消するのか?」
最初に定義すべき対象の例を挙げると:
- 小さな文字が読みにくいユーザー
- 色の区別が難しいユーザー
- 音声読み上げを利用するユーザー
- 片手操作しかできないユーザー
- 複雑な文章を理解しにくいユーザー
これらの“具体的なユーザー像”を定義すると、改善対象が明確になります。
3. WCAGは「基準」ではなく“チェックリスト”として使う
アクセシビリティの代表的な指針であるWCAG(ウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン)は、標準基準として有名です。
ただし実務では、WCAGをそのまま導入しようとすると、次のような壁にぶつかります。
- 項目が膨大で現場に落ちない
- 専門知識がないと判断が難しい
- 実装コストが読めず改善が止まる
RARE TEKTの支援では、WCAGを“改善項目一覧”として使う形が最も現実的でした。
つまり、「適用できる項目から優先度順に対応する」というアプローチです。
4. 最初に取り組むべき“3つの超実務的アクション”
アクセシビリティは“できるところから始める”のが正解です。
① コントラスト比を確保する(読める状態の確保)
- テキストと背景のコントラスト比 4.5:1 以上が目安
- フォーム入力欄のラベルは薄くしすぎない
- 重要情報は背景色のみで判断させない
視覚的ストレスを大幅に減らせる、最も効果の大きい改善です。
② フォーム・ボタンの操作しづらさを解消する
- タップ領域は最低44px確保
- ボタン同士を密集させない
- 押し間違えが起きない距離を保つ
「押しづらさ」は多くのユーザーの離脱原因です。
③ 文章を“短く、構造化”する
- 1文を短くする
- 段落ごとにメッセージを分ける
- 結論 → 理由 → 補足 の順にする
読解が苦手なユーザーだけでなく、すべてのユーザーに効く改善です。
5. アクセシビリティは「UX全体の底上げ」になる
アクセシビリティというと“特定のユーザーのための対応”に見えがちですが、実際には UX 全体を底上げする改善群です。
- 読みやすさ → 情報理解のスムーズ化
- 操作しやすさ → 離脱率改善
- 入力しやすさ → CVR改善
- 説明の明確さ → 問い合わせ数減少
アクセシビリティを整えるほど、ビジネス上の数値が改善する理由はここにあります。
明日からできる実務アクション
- 対象ユーザーを具体的に定義する
- WCAGを“改善項目リスト”として利用する
- コントラスト比・タップ領域・文章構造を最初に改善する
- 読み上げユーザーの操作テストを軽く実施してみる
- アクセシビリティ改善=UX改善と捉える
“誰でも使える”は抽象的な概念ではなく、「特定のユーザーの困りごとを確実に減らす具体的なアクション」から始まります。まずは定義し、できるところから積み上げることが最も効果的です。