AI時代はNVIDIAの一強ではあるが、日本はその「半導体素材王国」

2025年11月21日

2025年11月、Googleが最新モデル「Gemini 3」を発表し、検索や開発プラットフォーム「Antigravity」にも組み込まれました。 大規模モデルの性能競争は、OpenAI・Google・Meta などの「モデル側」が大きく報じられています。 しかし、その裏側では「計算インフラ」と「半導体の素材」を握る企業・国が、静かに覇権を固めつつあります。

表舞台では NVIDIA と TSMC が AI 時代のインフラをほぼ独占し、そのさらに下流では、 日本が「半導体素材王国」として世界を支えている――本稿では、この構造を整理します。

AIは、Gemini 3 が出ても NVIDIA×TSMC タッグが一強ですごい

ChatGPT、Claude、Gemini 3 といった大規模言語モデル(LLM)だけでなく、 画像生成・動画生成・音声生成・3D生成といったあらゆる生成AIの裏側では、 ほぼ例外なく NVIDIA の GPU が使われています。

代表的なサービスを挙げると、次のようなものがあります。

  • 画像生成:Midjourney / Stable Diffusion / DALL·E / etc.
  • 動画生成:Runway / Pika / Sora など
  • LLM:GPT / Claude / Gemini 3 など
  • その他:NeRF・3D Gaussian Splatting、音声生成、自動運転、ロボティクス、科学シミュレーション など

これらの「学習(トレーニング)」と「推論(インフェレンス)」は、 NVIDIA の GPU と、その上で動くソフトウェア基盤 CUDA(クーダ)を前提に最適化されています。 AI を動かすための「電力・エンジン・OS」を NVIDIA が握っている、と言ってよい状況です。

そして、その NVIDIA GPU を実際に製造しているのが、台湾の TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)です。 TSMC は世界最大の半導体ファウンドリ(受託製造)であり、Apple・NVIDIA・AMD などの最先端チップを一手に引き受けています。

役割を整理すると、次のようになります。

  • TSMC:半導体・GPU などのチップを「製造」する工場(ファウンドリの覇者)
  • NVIDIA:GPU を「設計」し、その上で動く AI 計算 OS「CUDA」を提供(AIインフラの覇者)

Gemini 3 のような最新モデルがどれだけ高度になっても、その計算は最終的に 「NVIDIA が設計し、TSMC が製造したチップ」の上で実行されます。 ここが、AI 時代のインフラ構造の出発点です。

半導体の前の“半製品”は、日本が世界最強クラス

では、その半導体(GPU や CPU)がどのように作られているかを、もう一段下まで分解してみます。 GPUそのものの前には、半導体製造に不可欠な「半製品(材料+加工品)」がいくつも存在します。

代表的な半製品は、次のようなものです。

  • シリコンウェーハ(12インチ/8インチ)
  • 化学薬品(フォトレジスト、現像液、エッチングガス)
  • CMPスラリー(研磨材)
  • マスクブランク(回路パターン用の原版)
  • 高純度ガス
  • 配線用の銅・各種金属膜
  • 封止樹脂、パッケージ材料

この中でも、とくに純度・精度が求められ、世界的なボトルネックになり得るのが次の3つです。

フォトレジスト:ナノスケールの“インク”

フォトレジストは、リソグラフィ工程で回路パターンを描くための感光材です。 ナノメートル単位の線幅で回路を描くため、不純物がほとんど許されません。 この領域では、JSR や 東京応化工業(TOK)などの日本企業が世界トップクラスのシェアを持っています。

マスクブランク:EUV時代の“原版”

マスクブランクは、半導体の回路図を投影するための「原版」となるガラス基板です。 とくに EUV(極端紫外線)露光用のマスクブランクは、極めて高い平坦性と清浄度が要求され、 日本の HOYA がこの分野で重要なサプライヤーとして知られています。

シリコンウェーハ:半導体の“土台”

半導体チップは、シリコン単結晶を薄くスライスした「シリコンウェーハ」の上に作られます。 12インチウェーハなどの最先端製品では、信越化学工業や SUMCO といった日本企業が世界シェアの大部分を占めており、 半導体の“土台”の供給を日本が支えている構図になっています。

つまり、AI 時代の目立つ部分である GPU・LLM の裏側では、 「フォトレジスト」「マスクブランク」「シリコンウェーハ」といった 超高純度・超高精度の半製品を、日本企業が世界に供給しているのです。 ここにこそ、日本が「半導体素材王国」と呼ばれる理由があります。

材料(希少性と安定供給)は、アメリカと中国が中心

さらにその下流、半製品のさらに“素材”となる原材料は、地質条件や資源分布によって、 特定の国・地域に偏在しています。代表的な素材は次のとおりです。

  • シリコン(Si)原料
  • 石英(高純度クォーツ)
  • ガリウム(Ga)
  • 炭化ケイ素(SiC)
  • 各種レアメタル(コバルト、タングステン、レニウム、イリジウム など)

この中で、調達が難しく、地政学的なリスクも大きいのが次の3つです。

高純度クォーツ:アメリカの特定地域に集中

半導体製造装置などでは、高純度クォーツ(石英)が欠かせません。 とくに世界の高純度クォーツの多くは、アメリカ・ノースカロライナ州 Spruce Pine 周辺の鉱山から供給されているとされ、 一地域への集中がサプライチェーン上のリスクとなっています。

ガリウム:中国依存度が極めて高い戦略鉱物

ガリウムは、GaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体に用いられる重要素材です。 低純度ガリウムの一次生産は主に中国が担っており、世界生産の大部分を占めるとされています。 中国政府による輸出規制の対象にもなっており、戦略物資としての色合いが濃い素材です。

レアメタル各種:産地偏在と地政学リスク

コバルト、タングステン、レニウム、イリジウムなどのレアメタルは、 アフリカ(コンゴ民主共和国など)、中国、ロシアなど限られた地域に産出が偏っています。 政情不安や環境・人権問題、輸出規制などにより、安定供給に対する懸念が常につきまといます。

こうした原材料は、日本国内ではほとんど産出されず、 日本は輸入とリサイクル(いわゆる「都市鉱山」)によって対応しているのが実情です。 その一方で、日本は、それら輸入原料をもとにした 「シリコンウェーハ」「フォトレジスト」「マスクブランク」といった 高付加価値な半製品の領域で強みを発揮しています。

まとめ:AIの“覇権”は NVIDIA、AIの“土台”は日本が支える

AI モデルの世界では、Gemini 3 や GPT のような大規模モデルが話題になりますが、 その下では、NVIDIA×TSMC のタッグが計算インフラを、そして日本企業が半導体素材・半製品を支えています。

  • モデル覇権:OpenAI、Google、Meta などが競争
  • インフラ覇権:NVIDIA(設計+CUDA)と TSMC(製造)がほぼ一強
  • 素材覇権:日本がウェーハ/フォトレジスト/マスクブランクなどで世界トップクラス
  • 資源覇権:高純度クォーツは米国、ガリウム・一部レアメタルは中国などに集中

「AI 時代は NVIDIA の一強だ」というのは半分正しく、半分だけです。 その NVIDIA のチップの土台となる素材・半製品の多くは、日本・アメリカ・中国といった国々の分業で成り立っています。 日本は、目立たないものの、AI 時代の基盤を支える「半導体素材王国」として、いまだに世界の中で重要なポジションを持っています。

参考リンク

本記事の内容を確認する際の、公的・準公的な資料や一次情報に近いソースの例をまとめます。

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