ユーザビリティテストで「誰を呼ぶか」で結果が変わる?
2025年11月19日
ユーザビリティテストは、UX改善の中で最も効果の高いリサーチ手法です。しかし実務では、「テストはしたのに改善方向が定まらない」「担当者によって結論がバラバラ」という状況が起こりがちです。
理由はシンプルで、ユーザビリティテストは“誰を呼ぶか”で結果が大きく変わるからです。テストの質は、参加者の選定でほぼ決まると言っても過言ではありません。
この記事では、RARE TEKTの上野が現場で経験してきた「参加者選定で起こるズレ」の典型例と、正しい基準を整理します。
サービスの“想定ユーザー”と違う人を呼んでしまう
最も多いミスが、テスト参加者がターゲットとズレていることです。
例えば:
- BtoBサービスなのに“ITに強い人”を呼んでしまう
- ECサイトなのに普段ネットで買い物をしない人が参加している
- 若年層向けなのに、社内の大人世代がテスト対象になっている
テスト自体は成立するため一見問題なさそうですが、実際には行動パターンも判断基準もまったく違うため、改善の方向がズレてしまいます。
“慣れたユーザー”ばかりだと課題が出てこない
既存ユーザーや、同じ業務に慣れた人ばかりテストすると、UXの課題がほとんど出ません。
慣れたユーザーは:
- 多少使いづらくても補完してしまう
- 操作に迷っても、経験で“なんとかできてしまう”
- 前提知識があるため、初見ユーザーと行動がまったく違う
結果として、“何も問題ないように見える”テスト結果になりがちです。これは危険な誤解で、初見ユーザーにとっては大きな障害が残ったままになります。
“詳しすぎる人”を呼ぶと、意見が分析を歪める
社内の専門家や詳しいユーザーを呼ぶと、それはそれで問題が生まれます。
- 仕様を知っているため、迷うポイントが一般ユーザーと異なる
- 「こうあるべき」という意見が強く、行動と発言がずれる
- テストの目的より“改善案の議論”に寄ってしまう
詳しい人の意見は参考になりますが、ユーザビリティテストの本筋は「迷う行動の観察」であり、意見ではありません。詳しすぎる参加者は、行動ログを歪ませます。
“人数が多ければ良い”は完全な誤解
ユーザビリティテストは一般的に「5人で80%以上の課題が見つかる」と言われます。この考え方は今でも有効です。
しかし実務では、次のような誤解が生まれます。
- 人数を増やすほど正確な結論になる
- 意見の数で優先順位を決めるべきだ
- 属性を広げるほど“網羅的なデータ”になる
実際には、人数を増やすことで別タイプの課題が混ざり、結論が曖昧になるリスクが上がるだけです。ユーザビリティテストは“深さ”が重要であり、人数は最適化すべき要素です。
“課題の質”が参加者によって大きく変わる理由
参加者の属性が違えば、見える課題の種類が変わります。
- 初めて使う人 → 初見で迷うポイントが見える
- 慣れた人 → 操作の“最短ルート”の発見に役立つ
- 専門家 → ドメイン知識が必要な説明の甘さに気づく
どれが正しいということではなく、参加者によって見える景色が違うということです。だからこそ、目的に応じて“適切なユーザー”を呼ぶ必要があります。
明日からできる参加者選定ステップ
- テスト前に「ターゲットの行動」「目的」「想定シナリオ」を整理する
- 初見ユーザーと既存ユーザーをバランスよく呼ぶ
- 専門家は“意見”ではなく“行動の観察対象”にする
- 人数を増やすより“目的に合ったユーザー”を絞る
ユーザビリティテストは、参加者の選び方で結果が大きく変わります。見える課題の種類が変わるため、誤った選定をすると改善方向そのものがズレてしまいます。
プロジェクトの目的に合ったユーザーを呼び、行動を観察すること。それが、再現性の高いUX改善につながる最も確実な方法です。