「ユーザーの声を聞いたのに成果が出ない」原因はどこにある?
2025年11月14日
ユーザーインタビューやアンケートを集めたにもかかわらず、改善後の数値が動かない。施策を実行したのに「使いやすくなった実感がない」と言われる。この状況は、多くのUX改善プロジェクトで起きています。
結論は明確です。ユーザーの声をそのまま改善案として採用すると、本来の課題からズレてしまうため、成果につながりません。声は重要な材料ですが、「声=解決策」ではありません。
ここでは、RARE TEKTの上野が実務で見てきた、成果が出ない原因を整理します。
ユーザーの声を“意見”として扱い、ニーズに変換していない
最も多い誤りは、ユーザーが言ったことをそのまま仕様に落とし込もうとすることです。
「もっと分かりやすくしてほしい」「ボタンを大きくしてほしい」といった言葉は、あくまでユーザーの表層的な意見です。根本的な困りごと(ニーズ)とは限りません。
意見とニーズは次のように違います。
- 意見:こうあってほしいという要望
- ニーズ:その意見が生まれた背景や根本原因
例えば「ボタンが小さい」という声も、実際の行動ログを見ると、真の原因はボタンの位置や文言にあることがよくあります。ニーズへ翻訳しない限り、改善しても効果は出ません。
声の“粒度”がバラバラで判断できない
インタビュー内容には、事実・意見・感想が混在します。この粒度が統一されていないと、チーム内で解釈が揃わず、施策の方向性がブレます。
おすすめの整理方法は次の三つです。
- 事実:ユーザーが実際に行った行動
- 理由:なぜそう感じたか、背景の説明
- 解釈:担当者が読み解いた課題
この三段階に整理するだけで、議論が格段にクリアになります。
声だけで判断し、行動データと突合していない
ユーザーは、自分の行動を正確に説明できません。ヒアリングで「ここが使いづらい」と言っていても、GA4で行動ログを確認すると、実際の離脱ポイントはまったく別の場所、というケースは珍しくありません。
例えば、フォームの「入力が難しい」という声が多くても、GA4でステップを分析すると、離脱の理由は「エラーメッセージの文言」にあると分かることがあります。
声だけを信じて判断すると、改善の方向性がズレます。必ず行動データで裏を取ることが必要です。
改善案に優先順位がなく“全部やる”状態になっている
ユーザーの声をすべて対応しようとすると、時間もリソースも足りず、どれも中途半端な改善になります。成果が出ないプロジェクトは、共通して「やるべき順番」が決まっていません。
優先順位づけの軸は次の二つです。
- インパクト:改善したときの効果の大きさ
- 実現容易性:改修に必要なコストや工数
この二軸で整理すれば、取り組むべき施策は自然に絞られます。
明日からできる改善ステップ
- 声をそのまま採用せず、背景のニーズに翻訳する
- インタビューやアンケートは「事実・理由・解釈」に分ける
- GA4の行動ログと照合し、声とのギャップを特定する
ユーザーの声は改善のスタート地点として非常に有効です。しかし、その扱い方を間違えると、むしろプロジェクトが迷走します。声の奥にあるニーズを読み解き、データと突合しながら優先順位を決めることで、初めて成果につながります。
「声を聞いたのに成果が出ない」のではなく、「声の扱い方が変われば成果は出る」。これは、実務の現場で強く実感していることです。