Googleが“デザイン職”を切った日——AI時代のUX再編が始まった
2025年10月 8日
2025年10月、Googleが100名以上のデザイン関連職を削減したというニュースが話題になりました。対象はクラウド領域のUXリサーチやサービス体験設計など。これは単なるコストカットではなく、AI中心の開発体制と組織の軽量化を進める中で、デザインという仕事の定義が更新されつつあることを示しています。
本稿では、この動きの背景、職種別インパクト、今後の展望、日本企業・個人が取るべきアクションをUX視点で整理します。(参考:The Economic Times)
なぜ「デザイン職」なのか
ここ数年でGoogleはGeminiをはじめとする生成AIへ巨額投資を進め、UI/UXの上流〜実装前工程にまでAIが浸透しました。Figma等の設計ツールもAI支援が標準化し、初期ワイヤーやUIバリエーション生成、文言草案、ガイドライン適合チェックが半自動化。さらに行動ログやユーザーフィードバックの解析もAIで効率化され、従来の「手作業の多い定型ワーク」部分が縮小しています。
結果として、「人が価値を出す領域」と「AIに任せる領域」の線引きが進み、後者の比率が高いポジションから再編が始まったと考えられます。
背景にある狙い:AIシフトと組織効率化
- AIファーストな開発速度の最適化:意思決定を小さく速くし、AI統合を前提にプロダクト更新を加速。
- 収益構造の保全:AIインフラ投資(TPU、クラウドAI統合)と並行し、非中核領域のオーバーヘッドを削減。
- 役割の再定義:マネジメント層のスリム化と「少数精鋭×AI支援」への移行。
職種別インパクトとスキル変化
“AIに置き換わる”のではなく、“AIを統制・活用して人間らしい価値を拡張する”方向への転換です。
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領域 | 今後の方向性 | 求められる新スキル |
|---|---|---|
| UXリサーチ | AIによる行動データ解析・仮説抽出が標準化 | 統計リテラシー / SQL / Python / LLM運用 |
| UIデザイン | AI生成の初稿を人間が評価・監修 | プロンプト設計 / 品質評価 / デザインシステム理解 |
| ビジュアル | 生成物の統制と方向付けが主役 | アートディレクション / 生成AIの特性理解 |
| プロダクトデザイン | PM・エンジニアと一体で価値設計 | 戦略設計 / 体験KPI設計 / リーン検証 |
世界と日本:構造転換のズレ
海外:「テック・デザイナー(Strategy × Data × AI × Design)」が台頭。FigmaやGeminiを使い、戦略から検証まで一気通貫で担う人材が評価されています。
日本:「デザイン=見た目・UI」の固定観念が残る一方、SaaS/DX領域ではUI職の統合・自動化が進み、“表現”より“設計”の価値が上がっています。
今後5年の展望
- 2025–2026:UI初稿はAI生成。人間は体験定義と監修に集中。
- 2027–2028:プロンプト設計・UX戦略設計が専門職として定着。
- 〜2030:AIがオペレーションを担い、デザイナーは「人の幸福体験」を定義する役割へ。
日本の企業・デザイナーへの提言
- 代替されにくい領域の強化:心理・文脈理解、観察に基づく洞察、ブランド体験の設計。
- AIの統制者になる:プロンプト操作に留まらず、出力の意図や限界を説明できる力量。
- デザインROIの言語化:AI活用でどのKPIが、どれだけ改善したかを定量で語る。
まとめ
Googleの再編は、AI時代のデザイン組織の再定義を象徴しています。恐れるべきは雇用の変化ではなく、価値の源泉が移ること。「人間だから見抜ける体験の本質」に集中する人と組織が、次の10年をリードします。
デザインとは、見た目を整えることではない。人と機械の境界が曖昧になる時代に、どんな体験を設計するか——それこそが、これからのデザインだ。