UXとは何か? 初心者にもわかりやすく解説
2025年 9月 6日
最近「UX(ユーザーエクスペリエンス)」という言葉を耳にする機会が増えています。しかし実際には「UIと何が違うの?」「使いやすさのこと?」と混乱している人も多いのではないでしょうか。 UXはITやWebデザインの専門用語にとどまらず、マーケティングやサービス開発全般で重視される概念です。本記事では、国際規格や学術的知見をもとに「UXとは何か」を整理し、初心者にもわかりやすく解説します。
UXの定義
UXは「User Experience(ユーザーエクスペリエンス)」の略語で、日本産業規格(JIS Z 8521:2020)では次のように定義されています。
『製品やサービスの利用を通じて生じるユーザーの知覚や反応の総称』【^1】。
ここで重要なのは「利用を通じて」という点です。UXは単なる見た目のデザインではなく、ユーザーがその製品やサービスを利用する前後も含めて、心の中に生まれる期待・感情・評価をすべて指します。 たとえばカフェに行くとき、「どんな雰囲気だろう」と想像するのが利用前の体験、実際にコーヒーを飲むのが利用中の体験、帰り道に「また来たいな」と感じるのが利用後の体験。これらすべてがUXに含まれます。
UXとUI、CXの違い
UXと混同されやすい用語に「UI(ユーザーインターフェース)」と「CX(カスタマーエクスペリエンス)」があります。 それぞれの違いを整理すると次のようになります【^4】。
- UI:ユーザーと製品・サービスの接点。例:Webサイトの画面、スマホアプリのボタン、ATMの操作画面。
- UX:UIを通じてユーザーの中に生まれる体験。便利さ・分かりやすさ・楽しいといった主観的な感覚を含む。
- CX:顧客体験全体。広告・購買・サポート・アフターサービスまで含む広い概念。
つまりUIは「設計物」、UXは「体験」、CXは「企業全体との関係性」と理解すると混乱しません。 よく「UX=デザイン」と短絡的に語られますが、正しくは「UI設計を通じてUXに影響を与える」関係にあります。
UXの種類
ドイツの研究者ハッセンザール(Marc Hassenzahl)やUX白書【^2】【^3】では、UXを時間軸で4つに分類しています。
- 予期的UX(利用前):体験を想像して抱く期待や不安。例:旅行予約サイトで宿泊先を選んでワクワクする。
- 一時的UX(利用中):実際に使っているときの体験。例:ホテルに到着して部屋の清潔さを確認する。
- エピソード的UX(利用後):体験を振り返る記憶。例:旅の思い出を写真とともにSNSに投稿する。
- 累積的UX(継続利用):繰り返しの利用を通じて蓄積される体験。例:毎回同じホテルを利用して安心感を得る。
このようにUXは一度の操作性だけでなく、利用前後の文脈や長期的な関係性まで含む包括的な概念です。
なぜUXが重要なのか
現代のユーザーは選択肢を豊富に持っています。機能や価格の差別化が難しくなる中で「どんな体験が得られるか」がサービス選択の基準となっています。
たとえば同じコーヒーでも、自宅で淹れれば100円で済むのに、多くの人がカフェに数倍の金額を支払います。その理由は「雰囲気」「接客」「居心地の良さ」という体験に価値を見いだしているからです。 Apple製品が高価格でも選ばれるのも同じ理由で、スペック競争ではなくUXそのものがブランド価値を形成しています。
またビジネス面でもUXは「離脱率の低下」「継続率の向上」「口コミ拡散」と直結するため、単なるデザイン要素ではなく企業成長の戦略要因になっています。
UXデザインとは
UXを意図的に設計する営みを「UXデザイン」と呼びます。これは「見た目をきれいにする」ことではなく、ユーザーの行動・感情・期待を理解し、それに基づいて体験全体を設計することです。
UXデザインの典型的な手法には以下があります。
- ユーザーリサーチ:インタビューやアンケートで利用者の行動・課題を把握する。
- ユーザビリティテスト:実際に操作してもらい、使いにくさや誤解が生じる箇所を発見する。
- カスタマージャーニーマップ:利用前から利用後までの体験を可視化し、感情の山谷を整理する。
- プロトタイピング:早期に試作品を作り、改善を繰り返す。
こうした手法を通じて、UXを定性的にも定量的にも理解し、改善につなげていくのがUXデザインです。
初心者が押さえるべきステップ
UXは「難しい理論」から入る必要はありません。むしろ「使いにくい」「見づらい」「わかりにくい」といった日常的な不満を拾うことが第一歩です。
例えば入力フォームで「住所入力が面倒」「エラーがわかりにくい」といった声が出るなら、それはまさにUXの問題です。 スマホサイトで「文字が小さい」「ボタンが押しにくい」といった声もUXの一部。こうした具体的な改善こそがUXを良くする出発点です。
初心者が最初に取り組むなら「小さなユーザビリティ改善から始める」こと。これが積み重なって、全体として優れたUXを形作っていきます。
まとめ
UXとは「製品やサービスの利用を通じて生じるユーザーの知覚や反応の総称」です【^1】。 UIやCXと混同されやすいですが、UXは利用前から利用後まで含む広い概念であり、企業の競争力を左右する要因でもあります。 初心者にとって大切なのは、UXを抽象的な流行語としてではなく「ユーザーがどう感じ、どう動くか」を理解する視点です。
今後のコラムでは「フォーム改善」「スマホ閲覧のしやすさ」など、具体的なユーザビリティ課題を取り上げ、UX向上の実践的な方法を紹介していきます。
参考文献
- JIS Z 8521:2020 人間工学 — 人間工学に基づく人間中心設計.
- UX White Paper (2011). UXPA & ISO関連.
- Hassenzahl, M. (2008). User Experience (UX): Towards an experiential perspective on product quality.
- Nielsen Norman Group. “The Definition of User Experience (UX)”. https://www.nngroup.com/articles/definition-user-experience/